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東京高等裁判所 平成元年(行コ)38号 判決 1990年1月30日

東京都墨田区東駒形4丁目15番3号

控訴人

下田機工株式会社

右代表者代表取締役

下田秀正

右訴訟代理人弁護士

葭楽昌司

横溝高至

同都同区業平1丁目7番2号

被控訴人

本所税務署長 奥村和也

右指定代理人

堀内明

外3名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和57年12月21日付けで控訴人の昭和52年6月1日から昭和53年5月31日までの事業年度(以下「53年5月期」という。」の法人税についてした更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(ただし,いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額を64,222,034円として計算した額を超える部分を取り消す。

3  被控訴人が前同日付けで控訴人の昭和53年6月1日から昭和54年5月31日までの事業年度(以下「54年5月期」という。)の法人税についてした更正及び重加算税の賦課決定(ただし,いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額を35,312,171円として計算した額を超える部分を取り消す。

4  被控訴人が前同日付けで控訴人の昭和54年6月1日から昭和55年5月31日までの事業年度(以下「55年5月期」という。)の法人税についてした更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(ただし,いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額を64,963,085円として計算した額を超える部分を取り消す。

5  被控訴人が前同日付けで控訴人の昭和55年6月1日から昭和56年5月31日までの事業年度(以下「56年5月期」という。)の法人税についてした更正及び重加算税の賦課決定(ただし,いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額を37,047,519円として計算した額を超える部分を取り消す。

6  被控訴人が前同日付けで控訴人の昭和56年6月1日から昭和57年5月31日までの事業年度(以下「57年5月期」という。)の法人税についてした更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(ただし,いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額を26,965,511円として計算した額を超える部分を取り消す。

7  訴訟費用は,第一,二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

次のとおり付加,訂正するほかは,原判決事実摘示と同一であるから,これを引用する。

一  原判決9枚目表5行目の「従事していたこと」の次に次のとおり加える。

「(ただし,高原が,昭和52年ないし55年当時演歌師を業としていたとの事実は除く。仮に,控訴人の陳述中に右の点を認めたとするものがあれば,それは事実に反し錯誤に基づくものであるから撤回する。)」

二  同10枚目裏1行目の「高原らは」の前に次のとおり加える。

「右グリーストラップの製造販売は,当時,新開発の全く新しい分野にかかるものであって,世の中に全く知られておらず,新聞,雑誌等の広告,ダイレクトメール,パンフレットの配布等あらゆる種類の宣伝活動をする必要があったものである。そのため,控訴人は,演歌師の経験のある高原,建築業者等の出入りの多い飲食店を経営していた鈴木らをそれぞれ雇用し,同人らの経歴や仕事を高く評価し,常勤社員より高い給料を支払った。」

三  同11枚目表4行目から同裏10行目までを次のとおり改める。

「(五) 控訴人は,昭和52年5月期の法人税申告について被控訴人から調査を受けた際,被控訴人の調査官から他企業に勤務する者を重ねて社員とし給与を支払うことは認められないと指摘された。しかし,その際,会計事務所から,全く新しい分野で世間では今まで全く知られていなかった製品を製造販売するという特殊なケースであるから,自由に活動できる人であれば,常勤しなくとも給与所得者として認められるとの助言を得たので,次年度から高原らを雇用するに至ったのである。そして,昭和53年5月期及び昭和54年5月期において,被控訴人から調査を受けた際,控訴人が右助言の趣旨に従って説明したところ,被控訴人は,これを了解し,人件費関係も含めて調査をし,高原らの勤務の実態を十分に把握したうえで,高原らの給与について損金算入を認めたのである。

この経緯に照らせば,被控訴人は,右税務調査時に高原らの給与について損金算入を認めたのみならず,以後においても,これを否認し更正処分をしないとの意思を表明したものといえる。

しかるに,被控訴人は,使い込みの発覚により自ら退職した西村の中傷的密告を全面的に信用して,被控訴人が既に把握していた同一内容の事実をもって,後日,前の認定を覆して更正処分をするに至ったもので,このような処分は,信義則に反し許されない。

2 西村に対する役員報酬について

控訴人は,西村との間で同人の役員報酬を昭和55年3月から月額150万円とする契約をし,同人が控訴人の業務に従事することを予定していた。西村が,同年7月31日で退職し,その前の同年6,7月に控訴人の業務に従事していなかったことは事実であるが,取締役の役員報酬については,委任事務を提供せず,かつ,その提供が予定されていなかったとしても,特段の合意がない限り,その期間の役員報酬を支払わなくてよいとする理由はない。そのことは,非常勤取締役に対する報酬について考えれば当然である。したがって,控訴人が,西村に対し昭和55年6,7月分の役員報酬として支払った300万円を損金に算入したことは,適法である。」

四  同13枚目表2行目の「なお」の前に次のとおり加える。

「租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては,信義則の法理の適用について慎重でなければならず,租税法規の適用における納税者間の平等,公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分にかかる課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に,初めて右法理の適用の是非を考えるべきところ,本件には右にいう特別の事情は存しない。」

五  同別表13の合計欄「8,230,000円」を「8,280,000円」に,同別表14の合計欄各「150,000円」を各「1,580,000円」にそれぞれ改める。

第三証拠

原審記録中の書証目録,証人等目録記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  当裁判所も,控訴人の本訴請求は,すべて理由がないものと判断するが,その理由は,次のとおり付加,訂正,削除するほかは,原判決の理由説示と同一であるから,これを引用する。

1  原判決14枚目裏4行目の「演歌師を業としており」を削り,同5行目から6行目の「生花店の仕事に従事していたこと」を「生花店の仕事をときに手伝っていたこと」と改める。

2  同15枚目表5行目の「同人ら」を「高原ら」と改め,同裏1行目の「乙第2号証の5の1,2」の次に「,原審証人高原透の証言,原審における控訴人代表者尋問の結果」を加え,同2行目の「高原らは」を「高原は,昭和52年ないし昭和54年12月ころの間,演歌師の組合に籍を置き,演歌師を業としていたものであり,鈴木及び吉岡は」と改める。

3  同19枚目表2行目から同裏8行目までを次のとおり改める。

「5 次に,控訴人の信義則違反の主張(五ノ(5))について検討するに,控訴人が高原らについて給与計上額を損金として算入する措置をとるに至ったのは,その主張のとおり昭和52年5月期の調査の際の係員の言動及びその際の会計事務所の助言によるものであり,昭和53年5月期及び昭和54年5月期の調査の際,控訴人が係官に対し,その趣旨を説明して一応事無きを得たことは,原審における控訴人代表者尋問の結果によりこれを認めることができるが,進んで,被控訴人が,昭和53年5月期及び昭和54年5月期における調査の際,高原らの勤務の実態について十分に把握したうえ高原らの給与計上額を損金に算入することを認容したとの点についてはこれを認めるに足りる証拠はない。

かえって,前掲証拠によれば,当時,右係官は,勤務形態は異例であるが給与に見合う稼働はしている旨の控訴人代表者の説明を一応信用し,この点につき格別の指導をしなかっただけのことであることが認められる。したがって,このことにより,被控訴人が右各期についてはもちろん以後についても,このような処理を是認し,後に更正処分をしないことをも認めたとする控訴人の主張は採用できない。

そうであれば,その後,被控訴人において,新たに調査をした結果,控訴人が架空給与を計上して法人税の申告をしたことを把握し,本件各更正処分をするに至ったとしても,これを信義則違反とするのは当たらない。

なお,付言するに,一般に,租税法律関係において信義則の法理を適用するについては,租税法規の適用における納税者間の平等,公平という要請をも考慮すべく,それをも犠牲にしてなお当該課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存しない以上,右法理の適用を是認することはできない。

ところで,本件更正処分に至った経過は前記認定のとおりであるから,前記特別の事情が存する場合に当たらないことが明らかである。したがって,控訴人の右主張は採用できない。」

4  同20枚目裏10行目の「従事しておらず,」の次に「西村の担当していた業務は,控訴人の社員である中川孝三においてこれを処理しており,西村はもはやその業務に」を加える。

5  同22枚目裏8行目の「同年6,7月」を「昭和55年6,7月」と改める。

二  よって,控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,控訴費用の負担につき,行政事件訴訟法第7条,民事訴訟法第95条,第89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 川波利明 裁判官 近藤壽邦)

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